「父より

     ~第2詩集 ・ 『雨音』に寄せられたあとがきです~

 

生活に追われて、たちまち20何年かが過
ぎた。全く早い。子供が成長しただけ残っ
た。

目をつむると、昔が走馬燈のようにまわり
去る。苦しい年だった。勝も、来年は私が
父を亡くした歳だ。

「若いときの苦労は買ってもしろ」と。傷
つけた車に置き手紙をする精神は、皆にほ
しい。
何も若い、やることだ。大きく羽ばたけ。

今日は12月2日。

昭和17年 「操縦手簿」  12月2日  曇
  雲量   9
  雲高   1300米
  風向   北
  風速   5米     気流良好
  課目   特殊飛行(宙返り及び離着陸)   編隊飛行

これが、私の19才の12月2日だ。今の若い者は仕合わせだ。私も悔いはないが……。

母ちゃんはよく寝ている。よく食べて良く眠れる健康体だ。嫁ってきてから今まで、病気をしたことがないのが自慢の種。そのおかげで、子供も大きくなり、暮らしもいくらか楽になったことには、子供たちも感謝を共にしてほしい。 

母ちゃんは筆無精だけど、気持ちは勝たちもよくわかっていることと思う。

          1971年 12月 2日     森田 甲