会社の運営に行き詰まる 前に読む本

     ~編集・印刷・製本を自作した本のあとがきです~

 

 Part 1

 一日に全国で出版される書籍の数は200冊を超えるといいま
す。その中で再販されるもの、つまり初版本を売り切って2回目
の印刷がされるものは、わずか2~3%しかありません。出版社の営業形態としては、初版本の売り上げで書籍の作成に費やした経費を賄うために、再販されて始めて利益が出るような構造
になっているようです。しかしながら、再販率が2~3%という低
さでは、出版事業そのものが成り立たなくなっているのが現状
なのでしょう。

 一方では、本を出版したい人が未だに後を絶ちません。私も最初に世に送り出した本は自費出版の形を採用したのですが、そこで負担しなければならなかった費用は、個人の趣味のレベルをはるかに超える金額でした。新聞や雑誌で話題になるベストセラーの比率は、ほとんど天文学的な数字でしかないのに、誰もが自分の本は売れるのではないかという期待を持つことも、自費出版が増えている理由ではないでしょうか。まあ売れる売れないは別にしても、自分の書いたものが書籍という形になるのは、たいへん魅力的なことなのです。

 書籍には再販制度があって、定価での販売を義務づけています。これだけいろいろな規制が緩和されている世の中になっているのに驚くべきことですが、書籍は街の本屋さんが売りたい本を仕入れるのではなく、出版取次会社が配本をするかたちをとっているのです。本屋さんは売れなかった本は返品すればいいから、出版社に戻ってくる書籍の返品率は50%を超え、おびただしい在庫の山を抱え込んでいるのが実態で
す。したがって、再版率が低くて返品率が高いことにより、出版が事業として成立しなくなってきているのです。

 このような背景のもと、出版社は生き残りをかけるために、自費出版の比率を高くして、手数料稼ぎに軸足を移してきています。その結果どうなってしまったかいうと、本を「売る」ことにエネルギーを注がなくなってしまっているのです。つまり、売れる本を追求するべく内容面を充実させるのではなしに、書籍という形を作ることが目的になってしまったということです。個人が出版社に原稿を持ち込んだとしても目を通してもらえず
に、次回には、返信用封筒の同封を求められるようなありさまなのです。

 そこで私が考えたことは、出版社がやることを全部自分でやってしまおうということです。原稿は揃っているし、ワープロでデータにすることはできます。レーザープリンターは安くなり、ランニングコストも低く抑えることもできます。しかし、問題は製本をする作業でした。市販されている製本機は、何十万円もするからとても手が出ません。そうこうしているうちに、ネットで「ブナぶな考房」さんの「手作り製本術」のページに出合ったことにより、夢の実現に向けて、一歩も二歩も前に進むことができたのです。

 しかしながら、ここに辿り着くまでにはいくつもの高い壁を乗り越えなければなりませんでした。書籍用紙を探して印刷をしてみたのですが、トナーを熱によって転写させているために、両面印刷にすると紙がゆがんでしまい、紙詰まりを起こしてしまいました。そこで一段階厚い用紙で試みましたが、今度は二つ折りが困難になってしまったのです。この問題は、印刷したあとの用紙をひと晩お風呂場に置き、湿気を含ませることによって、紙をしなやかにすることで解決させました。

 1冊目の製本をしたときには、これは現実的なことではないとあきらめかけ、少しレベルアップしたときにも、これではとても市場には出せないと落ち込み、何回も試作を繰り返しながら、ようやく形にすることができました。それでも手作りのため、出版社が量産するものに比べれば、出来映えとしては格段に劣っています。どうか、そのあたりはご容赦ください。

 この単行本は、日刊工業新聞社の月刊誌「工場管理」に連載した、「工場運営の光と影」を中心にしてまとめたものです。私がこの仕事を始めてから13年が経過したわけですが、その間のさまざまな体験をもとにして構成されています。

 時代の移り変わりとともに、企業の経営の舵取りはますます困難になっています。本書が、会社を運営していく上でのなにがしかの問題提起になり、業務の改善をしていくための一助になれば、この上ない喜びであります。

 
 Part 2

 ISBNという書籍コードがあります。これは、世界共通で図書
(書籍)を特定するための番号で、どの国の、何という出版者の、どのようなタイトルの書籍であるかを特定でき、容易に検索で
きる基盤となる番号を決定するシステムです。日本では、図書
コードや書籍JANコード(日本工業規格制定の標準商品表示)
として使用されています。本にISBNコードを印刷することは法
律で決まっているものではありませんが、実際は、本を市場で
流通させるための条件になっているのです。私は、「背中を押してくれたのは向かい風」を出版するときに、個人で書籍コードを取得しました。したがって、10冊までは、私に与えられた書籍コードが使えることになっていますが、この書籍コードを取得しても、書店を経由して流通させることができないのです。

 この業界には取次(出版社と書店をつなぐ流通業者)という制度があり、取次でなければ書店に本を配本することができません。日本では約30社の取次が流通をつかさどっています。しかし、この自由市場経済体制のもとでは考えられないことですが、新たな出版社が、取次に新規口座を取得することはほぼ不可能な状態なのです。「Part1」のあとがきでも少し触れましたが、書店は自分の判断で書籍を仕入れるのではなく、取次から配本されるものを店頭に置いているのであり、この配本をする権利が取次にしかないため、いくら個人で書籍コードを持っていたとしても、書店に本を置くことができないし、書店を通じて本を注文してもらえることもできないのです。

 そこで、ウェブ(オンライン)書店のひとつに委託販売の申し込みをして受け入れてもらいました。多額の手数料を支払わなければならないことは覚悟していたのですが、計算外だったのは、先方で在庫を持ってくれないために、小刻みな注文に対して、その都度本を発送しなければならないことでした。商品である本を傷つけないために、クッション封筒に収納して送るのですが、この送料を負担しなければならないとなると、書籍を「販売」する意味がなくなってしまいます。

 このことを逆手に取った出版社もあります。取次に登録しているその出版社を発売元にすれば、流通を代行してもらえることになるのです。ある出版社は、印税として定価の60%を著者にくれるというものでした。もちろんそれなりの手数料は支払わなくてはなりません。私はこの会社に、印税は30%ずつの折半でいいから、お互い出来高払いにしませんかとの提案をしました。つまり自費出版と同じように手数料稼ぎをするのではなく、本をたくさん売ることによって収入を得るという、本来の商業活動の原点に戻ろうではないかということです。そうなれば、本の質を問わなければならないし、売るための仕掛けもしなければならないでしょう。しかし、そんな私の提案は見事に蹴られることになったのですが、この場合にしても、書籍という現物は、著者が製作して供給しなければなりません。
 
 新書版の書籍300部の作成・出版を、60万円で請け負うという業者もありました。この場合だと、1冊あたりのコストは、なんと2,000円にもなってしまいます。それを800円程度で売るとしたならば、どこに著者のメリットを見いだせというのでしょうか。大手の出版社に「個人出版」の見積もりを依頼したこともありますが、単行本を1冊作る料金が230万円もして、著者が受け取る印税は定価の3%ということでした。本を世の中に送り出すことは、こんなにも大変なことだということになりますが、一方では出版する自由がない、疲弊しきっている業界だとの捉え方もできます。

 そこで、無謀にも、自分で書籍を作って販売してみようという発想になったわけです。編集・印刷・製本の全てを手作業で行い、販売は自分のホームページを使おうというものです。やがて確実に電子書籍の時代になるでしょうが、紙でできた本の暖かい感触を求めている人に対して、1冊ずつ心をこめて製作したものをお届けしようとしています。こうやって形にするまでには、何回もの挫折を味わいながら、その都度それを克服してきました。その過程で感じたことは、私たちが過去に置き去りにしてきてしまったものは、このように歩みはのろいけれど、地道な努力をコツコツと続けることなのではなかったのかということでした。

 「企業のお医者さん」になりたいという願いのもと、今までいろいろな企業の経営改善のお手伝いをしてきたわけですが、その経験の一部分だけでも拾い上げていただければ、この上ない喜びであります。