たとえば「うた」



          これからも暴力的に生きていく 
          ・・・と言った 甲斐よしひろの
          みんな軟弱で軟弱で
          気が滅入ってくる
          ・・・と言った よしだたくろうの
          自由になりたいと思っていても
          自由になんかなれない
          私は自由なんだと思った瞬間から
          みんな自由なんだよ
          ・・・と言った 加藤登紀子の
          うたを
          俺は愛する

          甲斐バンドは
          日本武道館のいちばんてっぺんで
          目を凝らしてみていた
          甲斐よしひろの表情なんてわからないし
          音が反響し合って
          言葉がよく聞き取りにくかった

          加藤登紀子は
          日劇ミュージック・ホールの
          あの長い階段を
          1度は整理券をもらうために6時半から
          2度目は入場するために8時半から
          それぞれ並んだ
          9時半から始まったコンサートは
          0時5分の終電までに終わらなくて
          悔しかったけれど
          途中で抜け出した

          よしだたくろうは
          2ヵ月半もむこうのチケットなのに
          朝から並びでもしないかぎり
          手に入らない

          レコードやテープや
          ラジオやテレビでなく
          生の声を聴きたいし
          ふれ合いたいと思っている

          相手が大きく見えたら
          ちゅうちょしないで
          ぶつかっていくんだ

                        (1980.2.7)