子宮願望



          ひざを抱きかかえるようにして
          体を丸めないと
          布団の中に入っても
          なかなか眠りにつけない
          それは
          胎児が
          子宮の中でとる姿勢に似ている

          女の人の存在が
          私の日常の意識の中で
          その占める割合は
          かなり大きい

          何人もの女の人を
          体験してみたいという
          そういった趣味は私にはない
          私の欲求は
          かといって体の関係を抜きにはできない
          それでいてきわめてメンタルなものだ

          恋などという
          メルヘンチックなものじゃなく
          愛などという
          やさしいひびきを持っていない
          もっとドロドロした
          人間と人間のぶつかり合いを
          男と女に求めている

          そいつは
          仕事よりも
          生活よりも
          もっとどっしりしたかたちで
          私の中に巣くっている
          淋しさや
          空しさなんかは
          大部分がそこから発生する

          本能というには
          あまりにも理屈めいていて
          生き様にするには
          ちょっと女々しくて
          吹っ切ることができれば
          どんなに楽かと思うのだが

            「私が赤軍に入ったのは
            2回にわたり失恋したからだ」
            いまは
            イスラエルの刑務所に服役中の
            ロッド空港乱射事件の犯人
            岡本公三は
            インタビューに答えて言っている

          原始の昔
          まだ家族制度が確立されていなかった頃
          男と女の関係は
          もっと自由だったのだろう
          社会常識というやつが
          妙に入り込んでくるから
          ことを複雑にさせる

          幼児性なのかもしれない
          乳離れしていないのかもしれない
          しかし
          無機質な精神は
          自分の身につけたくはない

          ひざを抱きかかえるようにして
          今夜も眠りにつこうとしている
          子宮の
          やわらかさやあたたかさが
          私には忘れられないのかもしれない

                             (1982.9.4)