ピアノ



          ギターや
          レコードプレイヤーが欲しかったのは
          中学生のときだ
          板切れに輪ゴムを張って
          ギターの代わりにした
          「ボレロ」や「チゴイネルワイゼン」は
          ハーモニカでメロディだけなぞった

          ギターは
          5千円のクラシックを
          プレイヤーは
          雑誌に載っていた特価品を
          いずれも高校生のとき
          アルバイトの金で買った

          両親は
          おかしなことをはじめたなあと
          いわんばかりの目つきで見ていた
          ピアノなんて
          触ったこともなかった

          あつしは
          3歳だというのに
          「手を洗ってからにしなさいよ」
          と言われるくらいで
          自由にピアノにさわれる
          ギターは
          おとうさんのお古が
          おもちゃといっしょに転がっている
          動揺のいっぱい入ったテープは
          好きなときにカセットデッキに入れ
          自分で聴くことができる

          あつしの太い指を見ると
          「ピアノを習いなさい」なんて言えないけど
          お父さんの時代にくらべると
          ずいぶん恵まれているのだぞ

                       (1979.10.12)