おばあさん



          あなたのか細い腕のために
          あなたの2倍くらいあるお孫さんは
          夜遅くまで
          アルバイトをしていました

          2日前の夜です
          チップをもらったと言って
          小銭入れをチャラチャラさせながら
          私の部屋へ入ってきました
          医療費の値上げで
          入院費が上がったからと
          タクシーの運転手をしていたのです

          彼にとって
          あなたは何だったのですか

          あなたが酸素吸入を受けている横で
          そう
          病室のベランダに毛布を敷いて
          スタンドの弱い光をたよりに
          彼は機関紙の原稿を書いていました

          冬が去っていくとともに
          あなたは元気を回復しました
          「オメデトウ フジ」
          と文字の入ったバースディケーキを
          口のまわりにいっぱいつけて
          むせながら食べたことを
          覚えていますか

          あなたのしわくちゃな足は
          あなたの澄み切った目は
          あなたのぴくぴく動く鼻腔は
          まわりの人に勇気を与えていました

          あなたの2倍くらいあるお孫さんは
          普段の態度に
          自分の境遇を表しません
          いつもおおらかで 大胆で
          張り切っています

          彼にとって
          あなたは何だったのですか

          おばあさん
          さっき
          あなたが亡くなったことを聞きました
          息を引き取った様子はわかりません
          彼は第3者に対して
          「助かった・・・・」と言ったそうです

          おばあさん
          彼に
          おばあさんの名前をとった
          「フジ」というニックネームが
          あることを知っていましたか
          彼の行動は
          彼の苦しみは
          そして
          わずかな彼のよろこびは
          みんな
          おばあさんのためだったような気がします

          おばあさん
          彼の行動が
          少し変わるかもしれません
          私はおばあちゃん子だから
          よくわかります
          彼が甘えていたら
          叱りつけてください

          あなたの2倍くらいあるお孫さんや
          あなたから勇気をもらった
          みんなの胸の中に
          まだあなたは生きています

          私は
          やがて忘れてしまうかもしれません
          いつか
          私のおばあちゃんが亡くなったときに
          また思い出します
          そして
          その偉大さを
          あらためて知ります

          安らかに眠ってください
          おばあさん