気高きものへ   



          雑踏の中に母の姿を求め
          騒音の中に母の声を求める
          あたたかい手のひらが欲しい
          甘い乳のに匂いのする
          大地が恋しい

          生命を宿し
          生命を育てる
          こののがれのない自然の摂理が
          また喜びであるはず
          自分の中に潜む偉大な力を
          十分に誇っていいはず
          与えられた使命に
          向かっているのだから・・・・・

            ギブスをはめた細い足を
            引きずりながら歩く少女
            彼女は
            一歩一歩が苦痛であり
            一歩一歩が真剣である

          はちきれそうな肢体を
          あざやかな衣服に包んで
          ショウウインドウをのぞいている君
          長い髪と白いブーツがよく似合って
          とてもきれいだよ

          純白のウエディングドレスが
          一生の夢なんだって
          そのために
          洋裁も、料理も、お花も必要なんだね
          若いのにえらいなあ
          でも、それほどひたむきな様子が
          毎日の生活からは感じられない

            ギブスをはめた細い足を
            引きずりながら歩く少女
            彼女にとって
            明日とは何だろう
            生きるとは何だろう

          君に、自分の姿は見えない
          鏡にうつるのは虚像
          それにお白粉つけて口紅塗って
          僕の目に映るのは実像
          きれいになることはよいけれど
          ただそれだけではいけない

          手をつなぎ 腕を組み
          なにかにたよらなければ
          歩いていけないものなのか
          そんな弱さを
          女らしさだとは思わない
          孤独な姿こそ美しいと思う

            ギブスをはめた細い足を
            引きずりながら歩く少女
            彼女の瞳には
            不思議とかげりがない
            そして微笑を忘れない

          君の歩いてきたのは道
          これから歩いていくのも道
          長い、けわしい道
          決して
          自分の影に怯えることなく
          歩いていって欲しい
          君もまた
          ひとりの人間なのだから

                         (1969.7.6)