ドアチェーン



          そのアパートは
          街の盛り場から
          そんなに遠くないところにある

          女は
          そこにひとりで住んでいる

          男は
          女に
          ドアチェーンを買っておけと言った
          女は言われたままに
          そいつを買ってきた

          女は
          ドアを少しだけ開いて
          社会をながめるのだろうか
          男は
          ドアチェーンに
          女を守らせることが
          思いやりだと考えているのだろうか

          閉鎖的な毎日と
          固定してしまった精神と
          待つことしか知らない肉体を
          ドアチェーンは
          さらに女に押しつける

          男が女をしばりつけ
          女は
          しばりつけられることに 
          充足感を覚える
          そして
          それが男の愛情なんだと
          納得する

          ドアチェーンは
          外からドアを開けることを拒む
          しかし
          女は
          いつでも自由にはずせる

          外から入ってくる男は
          自分の手ではずすことはできない
          女の手を借りなければ
          ドアを開け放つことはできない
          なのに
          そのドアチェーンは
          自分にはまったく作用しないような
          錯覚におちいっている

          「愛」などというものの
          傲慢さが嫌いだ
          自分の立場しか見えない
          思い上がりが悲しい

          ドアチェーンは
          結局
          女の「意思」になっていくのだ

                        (1983.2.6)