あつし 1



          遅番をあがって家に帰ると
          午後10時をすぎていた

          あつしは まだ寝ないでいて
          「とうきた とうきた」と
          お母さんの横から這い出てきた
          こたつにはいると
          絵本を手に持って
          ひざの間に入り込んでくる

          もう何回も見た絵本なのに
          「ブーブーいっぱい」「ニャーいる」と
          ひとつひとつ指差し
          感嘆の声を上げる

          絵本を1冊見終わると
          テレビのスイッチを入れ
          「とおんの!」と言って
          スポーツ新聞を運んでくる

            お父さんはいま
            おまえのことを
            あまり考えていないよ

          電灯を消して
          腕まくらにして
          背中をさすっていたら
          寝息を立てはじめた
          おまえが
          お父さんの腕の中で眠りについたのは
          今夜がはじめてだ