アルゴルの独自路線が誕生するまで


  長野県の諏訪地方の企業が持つ高い工業技術力を、
 全国や世界に発信しようと企画された「諏訪圏工業メッ
 セ」には、企業を主体として大学や研究機関などもふく
 め255社が出展し、3日間で計2万3100人が来場す
 るという盛況ぶりだった。会場では、独自の技術力を活
 かした製品や、それらの裏付けとなる加工技術がたくさ
 ん紹介されて、企業の持つパワーと観客の熱気が交差
 していた。

  株式会社アルゴル(以下アルゴル)は、三次元微細加
 工形状のものを非接触で計測検査し、その高さの画像
 表示を行う装置「三次元形状検査機」を出展した。この
 装置は、格子投影法を応用した画期的なもので、今まで
 も部品を真上から見ることにより、形状の識別やある部
 分の高さを計測する装置はあったが、三次元形状のエ
 リアを短時間で測定する装置の製品化は世界初だとい
 う。「諏訪圏工業メッセ」の会場では、1円玉を使った実
 演が催され、大勢の観客の注目を集めていた。

  このように、アルゴルが世界に通用する製品を発表で
 きるようになるまでには、幾多の苦難の道のりを辿らな
 ければならなかったようだ。創業当初は、1年かけてやっ
 と完成させた検査装置を安い価格で販売したところ、大
 手メーカーに同等の装置を開発されそれをぶつけられ
 たために、またたく間に駆逐されてしまった苦い経験が
 ある。そのときに気が付かされたことは、「安くて大量生
 産が可能なものでは勝負にならない」ということだった。

  企業として生き残るためには、手がかかるために大手
 メーカーが敬遠する分野で、なおかつお客さんが希望し
 ている精度や速度を実現させるための個別仕様に対応
 していこうという方向性を打ち出した。そこから、アルゴ
 ルの独自路線がスタートするわけである。製品を構成す
 る取り込みボードや照明も、はじめのうちは市販品を購
 入して使用していた。ところが、個別仕様にともなう変更
 が発生しそれを購入品に要求しても、当然のようにすぐ
 には対応してもらえない。そこで、それらについても自分
 たちの力で作っていこうということになった。

 【会社概要】

  会社名:(株)アルゴル
  所在地:〒399-4511
        長野県上伊那郡南箕輪村8211-12
         п@0265-76-7845
         http://www.algol.co.jp

  設立:1992年 2月 26日
  資本金:2,325万円
  代表取締役:今井 博充

  従業員数:15名
  事業内容:画像処理装置の開発、
         製造および販売
 
     私がアルゴルさんを担当させていただくようにな
   ったのは3年前です。当時は、主要幹線道路沿い
   のテナントビル2階に事務所・研究室を構えていま
   したが、高精度の開発が振動により追求できない
   という問題に直面していました。

    折しも当庫の取り引き先に事務所売却の話があ
   り、それをご紹介し移転に結びけることができまし
   た。それが、開発技術力の向上や取り引き先との
   商談においても、良い結果を生み出すターニング
   ポイントになったと言っていただけることが、私た
   ち金融機関にとってみれば、何よりの喜びです。

    今ではアルゴルさんを基点にして、地元に企業
   間のネットワークが構築されており、地元経済に
   とっても大きな役割を果たす存在になっています。



         アルプス中央信用金庫 信大前支店 
                  支店長代理 酒井信幸



             

 地元金融機関の助けをいただいて

  そんな意気込みだけは素晴らしかったが、新たな製品
 の開発にはどうしても2年くらいの期間が必要になってく
 る。会社の体制も整わないまま、したがって十分な人材も
 配置できないままでは開発のスピードが上がるわけがな
 い。そうこうしているうちに、半導体不況、IT不況にもろに
 さらされることになる。お客様が行う設備投資は、そのと
 きの景気と確実に連動している。したがって、アルゴルの
 存続が危うくなったのは自然の理だったと言える。

  そんなとき、アルプス中央信用金庫さんが手を差し伸べ
 てくれたのである。今ある社屋は1996年から使用してい
 るものであるが、それまであった場所から移転する後押し
 をしてくれたのもアルプス中央信用金庫さんである。先行
 きがなかなか見通せなかった当時、銀行が必ず伸びると
 判断してくれることが、何よりも心強い裏付けであり心の
 拠り所でもあった。口で応援することは誰にもできるとして
 も、新しい社屋の物件を持ってくることまでは、正直言って
 思ってもみなかった。このように、親身になって応援してく
 れる銀行があることが、中小企業にとっては何にも代え難
 い力なのである。

  代理店政策を方向転換したことも、アルゴルの企業体質
 を強化させていく上では重要な分岐点であった。独自の販
 売ルートをもたない中小企業は、製品の販売の大部分を
 代理店にお願いしなければならないのが通常のパターン
 である。アルゴルもその例にもれず、代理店に依存した販
 売体制を敷いていた。ところが、その結果思うように売り上
 げが伸びていかなかったのである。

  それはある意味では無理もないことだ。代理店はいくつ
 ものメーカーの商品を取り扱っている。売り上げの目標を
 達成させようという場合には、売れ筋の商品に特化するの
 が普通である。そこでは、メーカーのバランスを考えなが
 ら売っていこうという気持ちはあっても、現実的には当面
 の数字を確保する方が優先されてしまうのである。

  もうひとつ重要なことは、お客様の考えていることや要求
 の内容が、アルゴルにまで届いて来なかったことである。
 これは大変不安定な状態で、なによりも自分の足で立って
 いるという実感に乏しかった。販売価格も自分たちでコント
 ロールすることが出来ないのでは、競合他社と同じ土俵で
 戦っているとは言えない。そこで、代理店に頼るのではな
 く、直販の方向を推し進めていこうという決断をした。この
 決断をするのには、悩みに悩んだ日々が3ヶ月間程続い
 ただろうか。一歩間違えれば売り上げが全くなくなってしま
 うことも考えられる。しかしそれよりも、これからの飛躍のた
 めの土台を作りたいという気持ちの方が強かった。

  アルゴルがめざしているのは画像処理装置の専門メー
 カー。ハード、ソフト(ユーザーアプリケーション)、照明など
 のトータル技術力を確立させ、お客様の要求に対してシス
 テムを提案できる企業にしていくことである。「後発メーカ
 ーが、先発メーカーと同じことをやっていたのでは、追い越
 すどころか追いつくこともできない」と、今井社長は話され
 ている。アルゴルが、市場に新しいカテゴリーの商品を継
 続して提供していくためには、企業としての総合力が必要
 になってくる。そこで、ISO9001にもチャレンジすることに
 した。



 ISOの統合システムにチャレンジ

  ISO9001の必要性は感じていたが、セミナーに参加
 して講義を聞いたり、取引先や取得企業の話を聞く限り
 では、通常の仕事の他にISOのための動きが必要なダ
 ブルスタンダードの業態になってしまい、とてもアルゴル
 の規模では得るものがないと判断していた。ところが一
 方では、お客様からのクレームが発生し、その処理に追
 われる日々が続いていた。取締役が全員で謝りに行くこ
 ともあったりで、自社ブランドを持つメーカーとしてこのま
 まではいけないといった危機感をつのらせていた。

  ISO9001の活動は、現状の仕事のプロセスを明らか
 にすることからスタートさせていった。それまで個人個人
 が抱え込んでいた仕事の内容を全部オープンにし、ムダ
 な部分は取り除いたり別の方法を考えたり、分業されて
 いた業務を有効に結合させるための仕組みを整えたり
 と、会議室に模造紙を広げ、そこにプロセスを書いたり消
 したりする日々が半年間も続いたのである。このような取
 り組みにより、アルゴル独自のシステムが完成し、それを
 運用する中からまた新たな問題が顕在化するといった、
 改善のサイクルがまわる条件が整ってきたのであった。

  この4月には、独自に構築した品質マネジメントシステ
 ムと環境マネジメントシステムとの統合システムで、ISO
 14001の認証の取得にチャレンジした。それまであった
 33ページの品質マニュアルに環境マネジメントシステム
 を追加した結果、ページ数は9ページのみの増加で、文
 書は8種類増えたけれど、記録はたった3種類の増加に
    押さえることができている。

  ときはちょうどRoHS規制が発令されるタイミング。
   @ ハンダの鉛フリー化。
   A 有害物質を含まない部品の調達。
   B リサイクル・リユース可能な部品を取り入れた製品
     設計。
 など、市場からメーカーに対して求められている課題と時
 期的にもちょうど同期が取れたかたちで、ISO14001の
 取り組みが進められた。これも、単なるライセンスの取得
 に終わらせることなく、アルゴルが企業としての社会的な
 責任をどうすれば果たすことができるのかという方向を、
 さらに突き詰めていくつもりである

  ISO14001の環境マネジメントシステムについては、
 これから、地域の住民の方々や自治体やお客様からの
 監査を受けるつもりである。つまり、本当の「利害関係者」
 の皆さんからいろいろ指摘していただき、真に血が通い
 合ったISOにしていきたいと思っている。





 社長のひとこと


  お客様に対して商品の品質を保証するためには、抜き
 取り検査では限界があります。今まで検査スピードが遅
 かったために全数検査を実施できなかったのだとしたな
 ら、当社の画像検査装置の導入を検討されてはいかが
 でしょうか。

  1分間に3000個以上のスピードで検査でき、測定分
 解能は1ミクロン以下の能力を発揮できるため、コネクタ
 端子や半導体関係のお客様を中心に導入していたただ
 いております。

  検査は価値を生まないと言われていますが、どのよう
 なワークに対しても、独自にハードとソフトを開発して対
 応できますので、必ずやご満足いただけるものと思って
 おります。
          代表取締役社長
                              今井博充


 アルゴルのモノづくり

  アルゴルは、自社で生産設備を持たず、外部の協力企
 業に生産委託しているファブレスの道を歩もうとしている。
 生産設備を持たないアルゴルが加工や組み立てを手掛け
 るよりも、それを得意とする企業にお願いした方が、いいも
 のを安いコストで作ることができるだろうとの判断である。
 しかし、生産技術力は自社の中に築きたいから、たとえば
 製品の修理を依頼された場合は、修理そのものの作業も
 大切だが、それよりも故障をした原因をきちんと究明し、対
 策を見い出すことの方が重要だとのスタンスをくずさない
 でいる。

  当初は生産だけを委託するパターンであったが、最近は
 レンズや機械の設計までお願いする例が増えてきている。
 当然アルゴルにはない固有技術を確立されている会社の
 ため、我々が難題だと思っているテーマをぶつけても、そ
 の要求を取り入れたレベルの高い結果を導き出してくれ
 る。国内にも、そしてこの地域にも、いろいろな分野でキラ
 リと光る企業がたくさん存在している。それらの企業との技
 術提携を推し進めながら、アルゴルの技術水準も高めてい
 こうと思っている。
 

 地域に根ざした企業になりたい

  アルゴルの夢は果てることがない。まず、そこに働く人
 たちが生き甲斐を感じられる企業にしていきたい。そのた
 めには成長し続けていかれる企業にしなければならない。
 したがって、過去に経験したような不況の波をもろにかぶ
 らないように製品群の分散化が必要だ。お客様に常に必
 要だと思われるメーカーにもなりたい。そのためには、市
 場のニーズを先取りし、新しくて斬新なシステムを提案し 
 ていかれるだけの技術力を持ちたい。

  また、アルゴルをここまで育ててくれたこの地域を大事
 にしたいと思っている。まず地域で認知されることが重要
 だと思うから、経済活動を通じてこの伊那谷に「外貨」を
 持ってきて、それを地域経済の発展に結びつけていきた
 い。まだまだ夢はたくさんあるけれど、それらの夢を実現
 させるために、15名の社員一人ひとりの力を結集させ、
 大きな推進力を発揮できる企業にしていくのです。


 筆者の視点

  製品が売れれば売れただけ故障やトラブル発生のリス
 クが 大きくなってしまう背景があるため、徹底して品質管
 理のレベルを上げていくことが最重要課題だ。中小企業
 がとかく苦手とする、部品や材料の調達方法の改善と在
 庫削減にも取り組み始めた。ファブレス化推進のための外
 注管理も強化していかなければならない。

  課題は、やっぱりリードタイムの短縮になってくると思っ
 ている。そのためには、自分たちの都合で納期を設定する
 のではなく、お客様の要求する納期を守るためには自分た
 ちは何をすればいいかという発想が必要になってくる。そ
 のためには、まだまだプロセスのきめの細かい改善が必
 要だ。

   筆者 : もりたまさる

    企業のお医者さん

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