仕事を部下に
  任せてください



 企業の中での生活が長い人ならば、そのときについた上司によって、仕事がやり易かったりやりにくかったりした経験がひとつくらいはあると思う。ここで言うやり易いとは、何をやっても干渉されず、その人の好き勝手に振る舞わせてくれることではない。たとえるならば、仕事を「進める」ために取り組もうとしているテーマと具体案があった場合、その方向が間違っていなければ、細かいことまでとやかく言わず、ある程度「自由に」行動させてくれることである。言い方を変えると、その人の持ち味を活かした形を取り入れることができるかどうかである。

 その逆のやりにくいとは、すべての場面で上司の意向に添わないといろいろ言われるために、その上司が持っている枠の中でしか展開が出来なくなってしまう場合である。私が参加している改善活動の中でも、部下の皆さんが微妙に言葉を選んで、上司の顔色を伺いながら発言をしている場面をよく見かける。自分が正しいと思ったなら自己主張をし、それが叶わない場合は上司に反発しろと言うのでない、上司が打ち出す方向に沿って動くことは会社という組織の中では必要なことではあるけれど、どんな上司も完全な管理者ではない以上、そんなことばかり繰り返していると、部下の仕事に対する応用力が失われてしまうのではないかということを心配している。

 たとえば報告。節目節目でのポイントを絞り込んだ上司に対する報告という動作は、企業活動を円滑に進める上で大変重要なことである。ところが、そこで報告する内容は、そのときの上司によって微妙に変わってくるのである。ある上司に対しては差し障りのないことばかり報告をする。ところが違った上司には問題になっているあるいはなりそうなことを報告することが実際に起こっているのだ。何がそうさせているのかというと、部下の資質ではなくて、上司のとっているスタンスが部下の行動を変えてしまっているのである。

 上司は部下にもっと仕事を任せて欲しい。任せるということは放ったらかしにするということではない。結果に対して責任をとるのは上司なのであるから、部下がきちんと物事を進めることが出来るだけの条件作りは怠ってはならないのだ。つまり網を大きく広く張れということ。そして、過程は大胆に任せながらそこから出てくる結果に対しては妥協しない。そのためには、全体はきちんと把握しながら、細部に対してはいちいち口を挟まずに、部下を信頼して見守っていただきたい。あいつはちっとも相談に来ないなどと愚痴らずに、部下が相談や報告に来なくても進捗を把握しているくらいの力量を発揮していただきたい。企業の財産は「ひと」であるならば、画一的な人間作りをすることだけが上司の役割ではないのだ。

                                         (2002.7)