お医者さんに
    なりたい



 私がお世話になっている会社に、先日抜き打ちの税務調査が入った。1年前の決算で、ある程度の利益を計上したために、税務署から目をつけられたようだ。その会社は小企業である。私もその内容を後で聞いたのだが、いろいろな指摘事項は、ほとんどが経理担当者の事務処理上の問題であった。
 
 私がおじゃましたとき最初に提案したのは、月次の決算数字を早く出し、できればその月が終わる前に見通しくらいはわかるようにし、数字をもとにした翌月の対策を立てなければならないのではないか、ということであった。経理面は税理士の先生にお任せしている。毎月の顧問料を支払い、月次と期末の決算処理は別料金、さらには年末調整をお願いすると、その都度料金を請求されるのだという。それではその先生が定期的にやってきて、その会社の経営に対する指導をしているかというと、ほとんど顔を出したことはないのだそうだ。
 
 私の健康面での主治医は、近くの村に診療所を開設しているお医者さんであ
る。その診療所は、お医者さんがたったひとりなのに、外来を受け付け、往診も
し、さらには入院施設も備えている。私がいちばん驚くのは外来の受付時間で、朝は7時から夕方は5時半まで、土・日・ 祭日も午前中は診察をしている。休診日が月に1日なんてのがざらにあるのだ。私が血液検査を依頼すると、その結果は先生本人が私の自宅に、それも夜8時をすぎた頃に電話で知らせてくれる。
 
 そこに勤務する看護婦さんが、「うちの先生は変わっていますから・・・・・」と言われたことがあった。何か体調に変化があるたびにお世話になっている私は、その先生が変わっているとは思っていない。ただ、一般的に頭の中に描く「お医者さん」のイメージとは、かなりの部分で違っているのかもしれない。違っていることをひとことで表現するとしたら、商売っ気がまったく感じられないことではないだろう
か。ただ、そのお医者さんは、いつも確実にお客さんの方向を向いて仕事をしている。
 
 私がなりたいのは企業のお医者さん。困っている会社に出かけて行き、なぜそうなっているのかを調べ、もっとも効果のある注射なり投薬を施す。そして、再び同じような病気に罹りにくくなるように、基礎体力を強化させる。私がいつも基本に置いていることは、自分のことを優先させるのではなくて、その会社のことを優先して考えたい。その会社の利益になることに対して誰にも負けない情熱を持
ち、取り組んでいきたいということである。
 
 「お医者さん」にひとつだけ条件があるとすれば、患者さん自身が「治りたい」と思うこと。本気で病気を治そうとする意志がなければ、なかなか私とは噛み合わない。だから、利益が出ている会社は、現状でもよしと思っているから、ちっとも改革に取り組もうとしない。本当は、経営状態が落ち込んでからでは手遅れなのである。患者が、具合が悪くなって自覚症状が出ないと、なかなか病院に行かないのと同じことだ。そこを何とかして、早めに治療を受けさせることができないものか、これが「お医者さん」としての私の課題である。
 
                                        (2001.6)