工場改善の3条件



 私がこの仕事を始める前は、ある会社の「改革推進担当」であった。外部からコンサルタントの先生をお招きし、部門ごとに設定されたテーマに沿って、全社一丸となって活動を進めていた。活動に取り組むきっかけになったのは、あの異常なまでの「円高」であった。このまま放っておいたのでは、製造業はみんな東南アジアに行ってしまうといった危機感が、それぞれの行動を後押ししていた。
 
 「改革」を進めるためには、外部の力をお借りした方が早く結果が出る。なぜかというと、行動がなかなか変わらないのは、個々の社員が持っている「固定観念」を打ち破ることができないからである。発想が変わらなければ、価値観が変わらなければ、行動が変わるはずがない。物事は、ちょっと切り口を変えるだけで、全く違った世界が見えてきたりするものだ。外部からコンサルタントをお招きするのは、「固定観念」を破るための呼び水の役割を果たして欲しいからである。
 
 私の場合にあてはめても、それまでいろいろな勉強をしてきたはずであったし、それなりの実践を進めた結果、一定の実績を残してきたという自負はあった。しかし、コンサルタントの先生が毎回問題提起される内容は、いずれも新鮮であ
り、自分自身の中にある「固定観念」を破るに十分なインパクトを与えてくれた。そして、今は、私がそのコンサルタントの先生の役割を果たさなくてはならないのだ。 

 私が推進担当でいたときも感じていたし、今のように逆の立場になってからも思っていることがある。それは、企業の中で改善活動を進め、それを成功させるためには3つの条件があるということだ。

 ① トップが改善に対する明確な意志を持っていること。
 ② 推進者が、信念を持ってことにあたっていること。
 ③ コンサルタントが、具体的で現実的な提案ができること。

これがひとつでも欠けると、活動は壁にぶち当たってしまうと思う。

 ①は、ある程度トップダウンで進めることが必要だからだ。小集団活動のように、「自主性」ばかり尊重していたのでは「改革」はできない。トップがふらついていたのでは、ただでさえ危うい心境にある社員は、目標が何であるのかわからなくなってしまう。

 ②は、社内で抵抗や反発にあっても、それにめげず、しっかりした展望をもって活動を引っ張っていく、そんな大黒柱みたいな人が必要である。八方美人であったり、大衆迎合主義ばかり先行するようでは、この役割は勤まらない。他人から何を言われようと、突き進むだけの信念が欲しい。  
 
 ③は私自身の課題である。私のスタンスとしては、結果が出なければ価値がないと思っている。だから机上の理論は振りかざさない。必要だと感じたら現場に入っていき、汗を流したり埃にまみれたりする。これでいけると判断するまで、その現場に張り付いたりする。常に客観的に物事を見ることができるという、「外部の人」のスタンスを保ちながら、一方では、社員のみなさん以上にその会社のことを考えたいという意思を、行動で示していきたいのだ。
                                        (2001.4)