拝啓、ISO審査機関殿

   
        ISO専門誌に掲載された御社社長の論文「ISOで中小企業を強力に
       バックアップ」
を拝見したのは、ちょうど1年前の9月のことでした。
       それまでいろいろな審査機関
とお付き合いをしてきたのですが、どう
       しても企業にとってしっくりとくる審査
機関がなくて、次はどことお
       付き合いをしようかと考えていた矢先でした。
 
        東京の御社までお伺いして、審査部長さんとお話をさせていただき
       ました。私は、
日本のISOがおかしな方向に進んでしまっていること。
       要求事項との整合性とか文
書の表現の状態にばかりに目が行って、残
       念ながら企業の役に立つシステムになっ
ていないこと。このままでは
       間接コストを上昇させるばかりで、企業のISO離れを
引き起こすので
       はないかといったことをお話しをしました。
 
        ISO専門誌に掲載されていた御社の社長の主張は次のようなもので
       した。
 
        @ 日本の小規模企業に付加価値をもたらすリーダーになることをめ
          ざす。
        A「審査をさせていただく」という姿勢で、誠心・誠意将来利益の
          拡大につなが
る改善の機会を提供する。
        B「これが本当のISOだったのか、これなら同じ業界の人に紹介し
          てあげたい」、
こんな言葉をかけ続けてもらえるサービスを提供
          したい。

        当然ながら審査部長さんからも同じ内容の説明があり、当面するふ
       たつの企業の審
査を御社にお願いすることにしたのです。
 
        先日行われた予備審査のスケジュール表には、「コンサルタントは
       オブザーバー
としての立場で参加してください」と書かれていました。
       それは当然のことだと思
っていたのですが、ひと言の発言も受け入れ
       られないとは思ってもみませんでした。
       開会のミーティングのときから雰囲気は変でした。その席にコンサル
       タントが参加
していることを知ると、表情から敵意がむき出しになっ
       たのがわかりました。
 
        ある審査機関は、コンサルタントの参加を前提にして審査を進めま
       す。審査の最
中の発言は自由であるばかりか、参加者名簿にも「コン
       サルタント 森田勝」と記
録までしてくれるのです。どうにでも解釈を
       することができる抽象的な要求事項の
表現を、中小企業のメンバーが
       短期間で理解することは困難です。だから私が両者
の橋渡し役になっ
       て、議論を深めることができればいいと思っているのです。審査
機関
       のスタンスも、その会社の品質やサービスの質を向上させることを目
       指してい
ましたから、当然のように議論はかみ合い、その結果審査も
       内容のあるものになり、
終了時の雰囲気は充実感に裏付けされた和や
       かなものでした。
 
        今回の予備審査の終了ミーティングのときに、審査機関の指摘事項
       がどうみても
勘違いからきていると思われたため発言を求めました。
       主任審査員はそれを受け付
けず、すべての質疑を終了させ、閉会の挨
       拶まで終わらせた後私に発言を許可して
きました。私は審査が終わっ
       た後の雑談の中で言うべきことではないと、何も発言
することはしま
       せんでした。過去に「コンサルタント」と何があったのかは知りま

       んが、何かを恐れているとしか思えませんでした。
 
        だいたい御社をその会社に紹介したのはこの私なのに、こんな対応
       は失礼じゃな
いかと思うのは感情論だとしても、ISO以前の経営改善
       を社員の皆さんと一体にな
って進めている私をのけ者にして、本当に
       会社にとって役に立つ品質マネジメント
システムができると思ってい
       るのでしょうか。いつまでも私がフォローし続けよう
とは思っていま
       せんが、このような審査を何回か経験しないと、その会社の社員が

       査員の方々と本音で話し合える状態にはならないのです。
 
        審査の内容は別にしても、もうひとつ気になったことがありました。
        それは審査
中は電話の取り次ぎは控えて欲しいと要求されたことで
       す。その会社では、午前中
の電話のやりとりがすべてです。それを2
       〜3人しかいないスタッフが切り回して
います。電話の取り次ぎがで
       きないとしたら、審査を土曜か日曜日にしていただく
しかありません。
       こんなことをおっしゃる審査員にも初めて出会いました。今まで
の審
       査機関の審査員は、「業務に支障をきたさないようにしてください」
       と言われ
ました。そうすれば自然と受ける側はやり繰りをするもので
       す。
 
        審査の中におけるひとつひとつの指摘の内容を上げ始めればきりが
       ありません。
そんな細かいことはどうでもいいのですが、専門誌の記
       事の内容や審査部長さんの
おっしゃったことと、現場の実態があまり
       にもかけ離れていることに驚いています。

        @ 少なくても今回の審査の中からは付加価値を見いだすことはでき
          ませんでした。
        A「審査をさせていただく」という姿勢は見られないばかりか、発
          想が大企業的
でした。
        B「これが本当のISOだった」と思います。ただし、私や御社が何と
         かしようと
している従来のISOです。
 
        「森田さんはあのとき何で発言しなかったの?」と、終わった後社
       員の皆さんは
おっしゃってくれたけれど、その理由はそこに「権力」
       を垣間見たからです。年内にISOを取得するのが、どうしても譲れない
       皆さんとの約束だったからです。